蒲原です。
本日は、特殊清掃の業務の中で最も強く覚えている案件のご紹介です。

遺品整理サービスでは「法に触れずにこころに触れる」ことを信念としている私たちですが、特殊清掃サービスにおいても同じことを心がけています。

ですが、亡くなった故人に対する感情がある程度落ち着いていることも多い遺品整理サービスと異なり、訃報の直後となる特殊清掃ではご遺族にどのように接したらよいのか、今でもよくわからないのが私の本音です。

その中でも特に強く印象に残っているのが、1人の男性が亡くなっていた現場でのことでした。

 

20代男性、死因は自殺

故人となったのは、まだ20代の男性。死因は自殺でした。

真夏の時期に死後3か月経過した状態で発見されたということで現場の状況は非常にひどく、アパートの階段を上がる時から臭いが漂っているほどでした。

部屋に到着してまず驚いたのは、ご遺体が見つかった付近の状態もさることながら、室内の物の少なさです。とにかく物が何もない。洗濯機すら置かれておらず、家具・物がこんなにも少ないこの部屋でどんな生活をしていたのだろうかと衝撃を覚えました。

しかし私がそれよりも強烈に覚えているのは、故人のお母さんと妹さんの様子です。

ご遺族のお二人

作業終了後、「部屋の中を見たい」とのご相談をいただきました。ご遺族としては当然の感情です。しかし、ついさっきまで清掃をおこなっていた室内は薬品の臭いも強く、そのまま立ち入れば体調にも影響が出かねません。そのためこの場は「今はまだ清掃作業が終わったばかりで薬品の臭いも強いため明日の方がよいと思います」と説明して、お気持ちをこらえていただきました。

翌日、ご遺族のお二人が部屋に入る前に最後の仕上げをしておかなければならないと思った私は予定の時間よりも早めに現地に向かいました。前日には取りきれなかった汚れの再除去を試みるとともに、ご遺体の見つかった部屋にお線香を用意し、花束を供えてお二人の到着を待ちました。

約束の時間通りにお越しになった故人のお母さんと妹さん。息子さんの、お兄さんの訃報を聞いてから今までどんなお気持ちを抱えられていたでしょうか。
大切な家族が亡くなったという事実を認めたくない気持ちは当然にあったことでしょう。それでもその現実を受け止めるために「部屋の中を見たい」とのお気持ちを口に出され、私の説明に応じて1日待っていただいたこと。

もしかしたら私がお待たせしてしまった1日は、お二人にとってはやりきれない気持ちを抱える時間を増やすものとなってしまったのかもしれません。

それでも昨日と変わらない様子でお越しになったお二人に、私はどのような言葉を掛けたらよいのか、まるでわかりませんでした。

室内でのご様子

ご挨拶ののち、薬品の臭いも少しは和らいだ室内へご案内します。最初はやはりご遺体が見つかった部屋に向かうわけですが、部屋に入って私が準備していた花束とお線香を前にしたところで、初めて私はお二人の涙を目の当たりにすることとなりました。

肩を震わせるそのご様子にもどんな言葉を掛けたものかと悩みましたが、私がさらに言葉に詰まったのは、涙が落ち着いたお二人に「遺品は何か残っていませんか」と尋ねられた時でした。

20代の男性の部屋とは思えないほど極端に物が少なかったこちらのお宅。かろうじて残っていた物も体液が付着するなどして汚れてしまっており、遺品と呼べそうな状態の品物はほとんどなかったからです。特殊清掃をおこなった中で、大半の物をもはや使用できない物として袋にまとめてしまっていました。

こみ上げてくるものをこらえながらお二人にその旨をお伝えしましたが、どうしても諦めきれないご様子。品物をまとめたいくつもの袋をお見せすると、お二人とも自ら袋を開けて遺品を捜し始められました。染み込んだ臭いはおそらくまだ強く残っていたはずですが、そんなことには構わず懸命にお探しになっている姿に、私はもう本当に言葉が出てこない状態でした。

故人となった男性は、まだ20代。学歴も非常に優秀なものを持ちながら、就職活動がうまくいかず、大家さんの話によればアルバイトでの収入があったのみだったそうです。極端に物が少ないのは経済的な理由だろうかと思いながら、しかしこれほど深い愛情を持ってくれている家族がいたのに何の相談もすることなく自ら命を絶った故人に対して、私は無意識に若干の怒りすら覚えていました。

結局遺族のお二人は、3点ほどの品物を持って帰られました。去り際、私の用意したお線香と花束に対する感謝の言葉をいただきましたが、私の中にはそれだけでは到底拭えない大きな無力感が去来していました。

 

ご遺族の心に寄り添い、触れるということの何と難しいことか。

いまだに忘れることのできないご依頼案件です。

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